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作品集 4   全季雑詠

                                  印は主宰特選句

  母の腰伸ばす間もなし田植時 馬場豊子
  紫陽花のひと恋ふ人に濃かりけり 乳原 孝
  羅やそのままにして年を古る 江南英子
  右書きの水間駅舎やつばくらめ 畑山美代子
  歴史もつ夏教室の廊軋む 平井政博
  Tシャツを黄色に変えて秋の朝 河原豊操
  生き死にを問うても死ぬる夾竹桃 宮崎善行
  大漁の旗靡かせよ鰯雲 須藤みさを
  平凡といふ幸せの西瓜切る 山之口チヤ子
  紫陽花や世代交替町起し 木寺茂子
  人の眼の死角の中に蚊の目あり あめ・みちを
  慟哭は蟻にも友の骸曳く 五十嵐一雄
  老いて尚頼らるる身の更衣 浅見雲舟
  吉野家に西日の座る席四つ 小原 勝
  鵜篝の届かぬ闇に鮠跳ねて 山下静子
  雨上がる神鹿と云へ獣臭す 石井キヌ子
  獅林誌の七十星霜秋重し 岸  薫
  寝ね難く身を裏返す熱帯夜 増田雅子
  黙し居てグラスの氷のめば鳴る 澤田稔子
  前進か後退の世か月笑ふ 堀江政子
  鶏頭の芯まで赤く枯れきって 藤井洋子
  キラキラと少年の眼蝉鳴く木 大畑よしえ
  道問えば君も旅人蝉しぐれ 竹下一善
  虫の音に四肢の伸びゆく湯殿かな 溝口喜代子
  山絞る水音のして合歓あかり 佐久間静子
  すれ違ふ人に秋日の匂ひけり 高橋幸子
  合歓の花昨日は昨日夢は夢 今井薹子
喧騒の短日暮れて児の寝息 畑山喜美代
  明け易し読書の刻をいただきぬ 三田村 和
  ひと言が駅まで一緒秋日和 野口貞子
  本能寺近づくほどに炎暑かな 天日照子
  淑気かな斧鉞を知らぬ神の杜 田中康雄
  雨脚を先がけて来る草いきれ 長清水美代子
  地下道に炎暑下りくるのぼり口 三井満子
  つつがなき母の背流す月夜かな 福島 緑
  朝取りのいぼここちよき胡瓜かな 古野燕安
  月見草野ら着の母の帰る刻 福井勝子
  義母卒寿人生の歩を知る夏や 中田博子
  梅雨晴れや海老蔵お練り王道に 中野和子
  晴れつづくなほたくましく夾竹桃 小西由紀
  あらためて世界遺産の滝仰ぐ 高松勝代
  燻べりし神の火そだて小豆粥 池木富美子
  老医師の木製机新樹光 北口秀子
  祝宴の末席侍る幸の秋 道上春子
  山寺の躑躅燃えいて鐘の音 田中幸雄
  七十歳の誌齢たたえる雲の峰 大平久子
  七夕や願い一つを短冊に 鎌田輝美子
  涼風のゆるりと通る生家かな 田畑房子
  青田風静かに苗をそよがせて 吉田千代子
  麦秋の真っ只中を風と行く 山崎貞子
  ゆらゆらと風の中なる芒原 荒木律子
  原爆忌こころの鐘の鳴り止まず 岡 美智子
  コスモスの向こうの声は少女たち 有馬正恵
  亡き妻を偲びて初夏の散歩道 久山田鶴子
  夜鳴きする子雀いるという古墳 塚田カヅヱ
  良いという物みな食べて暑にむかう 住本美千代
  動くものなくてしじまの炎天下 柄須賀早智子
  塀越しに石榴の花の朱冴ゆる 坂口高子
  今更と否定に勝てず蝉さわぐ 平山茂子
  凌霄花軒にしだれる風の蔓 木村安子
  窓ぎはの照る日曇る日水中花 後藤芳江
  枝豆の甘さを舌に別れ来ぬ 平橋道子
  鮎の瀬を月のひかりの進みをり 谷口志津
  掛け終うる稲架に夕焼け小焼けかな 苧田千鶴子
  大川を二つに分つ大暑かな 大森利治
  暑気くずれ窓一杯に外気吸ふ 大森利治

 

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